財務事務次官よりもはるかに正確に、国家財政や貨幣について理解できるようになる方法【中野剛志】
◾️矢野氏の根本的な理解不足と考え違い
早速、見ていきましょう。
2021年の「矢野論文」もそうでしたが、矢野氏は、「政治家はバラマキ合戦に明け暮れ」ていると嘆いています。
6月4日、自由民主党の財政政策検討本部が、プライマリー・バランス黒字化目標に「断固反対」という提言を出しました。
矢野氏からすれば、バラマキ合戦に明け暮れる政治家の「夢物語」であり、嘆かわしいといったところでしょうか。
矢野氏は、おそらく、この「提言」を読んでいないのでしょう。仮に読んだとしても、反論することはできないでしょう。なぜなら、矢野氏が見下す「バラマキ合戦に明け暮れる政治家」の方が、元・財務事務次官の矢野氏よりも、財政政策について理論的に正しく理解しているからです。
この自民党財政政策検討本部「提言」と矢野氏の主張との違いについて、かいつまんで言えば、次の通りです。
矢野氏は、冒頭「日本の借金が急激かつ雪だるま式に膨らんだのは、平成の時代が始まってからである」と書いていますが、「日本の借金」とあるのは、正確には「政府債務」のことでしょう。なぜなら、民間部門の方は借金が膨らむどころか、逆に、大幅な貯蓄超過が続いているからです。
政府部門は債務が膨らんでいるが、民間部門は逆に資産が膨らんでいる。実は、この点を踏まえることが、非常に重要になります。
誰かの債務は別の誰かの資産であり、誰かの赤字は別の誰かの黒字ですから、国全体で考えると、必ず、
「民間部門の収支」+「政府部門の収支」+「海外部門の収支」=0
という式が成り立ちます。
簡略化のために、「海外部門の収支」を無視して考えると、
「民間部門の収支」+「政府部門の収支」=0
になります。
すなわち、民間部門の貯蓄超過は、政府部門の債務超過だということになります。
では、平成の時代以降、どうして、民間貯蓄は増えたのでしょうか。